退職代行を使って会社を辞めるときに障害となりやすいのが、業務の引き継ぎです。退職代行を使う場合、引き継ぎがすんでいない可能性が高いため、会社からしつこい引き留めに合うことも少なくありません。その他にも、引き継ぎをすませず退職することのリスクも多いです。
この記事では、引き継ぎをすませず退職代行を使うことでどんなリスクがあるのかや、退職代行を使って会社を辞めるときに最低限すませるべき引き継ぎのポイントについて解説しています。できるだけ円満に退職するためにも、最低限でも引き継ぎはすませておきたいところです。
【大前提】退職代行を使う際に引き継ぎは必須ではない
まず前提として覚えておきたいのは、退職にあたって引き継ぎは必須ではない、ということです。
法律上は、雇用期間に定めのない労働者(≒正社員)であれば、退職日までの2週間前までに申し出れば自由に退職できることになっています。引き継ぎに関する要件は、特に法律では指定されていません。契約社員・派遣社員・パート・アルバイトについても、引継ぎしなければ退職できない、というルールはないです。
そのため引き継ぎをしていないとしても退職自体は可能ですし、退職代行を使ってはいけないというルールもありません。たとえば、あなたが今の職場で精神的に疲れ果てていて、忙しくて引き継ぎもまともにできていない – というようなときは、引き継ぎを待つまでもなく退職を検討した方がよいでしょう。
引き継ぎなしで退職代行を使うときのリスク
法律的に引き継ぎなしで退職したり退職代行を使ったりすることは可能、とはいえリスクがないわけではありません。それでは、実際にどんなリスクがあるでしょうか。
以下、想定される主なリスクを列挙して紹介します。
引き継ぎ後に退職するよう引き留められる
引き継ぎが終わっていないと、会社としても仕事が滞るなどの実害が生じる場合があります。そのため退職代行を使ったとしても、「引き継ぎが終わるまで退職は待ってくれ」と退職を拒否される可能性も否定できません。
あとは業者と会社の話し合い次第となりますが、引き継ぎの重要度によれば退職代行に失敗する可能性も十分に考えられます。
退職金が減額される恐れがある
退職金は通常の給料と同様に会社としても支給義務のあるものですから、基本的には余程の損害を会社に与えない限り減額される、ということはありません。けれど就業規則や退職金規定で「引き継ぎを行わない場合は退職金を減額する」といった指定がある場合には、それが適用される可能性があります。
なお減額される金額は、あくまで状況をふまえた上での「合理的な額」となる筈です。引き継ぎをしないことによって、大した実害がでていないのに減額される金額が多過ぎる、といったことはありません。
損害賠償の請求をされる可能性は低いがゼロではない
あなたが引き継ぎせずに退職することで、大きな取引が1つ無駄になる等の大きな損害がでるような場合は、損害賠償の請求をされる可能性がないとは言えません。
実際には、引継ぎしないことによって裁判沙汰になるようなケースはほぼないですが、過去には突然退職した従業員に70万円の損害賠償がみとめられた「ケイズインターナショナル事件(※)」という判例もあります。
※確かめよう労働条件:労働条件に関する総合情報サイト|厚生労働省
簡単にこの事件を要約すると、この社員が入社してすぐに辞めたことで大きな契約が解約されてしまい、会社が1,000万円の利益を失ってしまったとのことです。会社側は200万円の損害賠償を求めたものの、裁判では労務管理等の非があることを認め結果的に賠償額は70万円となりました。
これは非常にレアなケースですから、「突然退職すると損害賠償を請求されてしまう」わけではありません。会社側としては仮に裁判になったときの労力の方を嫌うことがほとんどだからです。
とはいえ、紹介した事例のように会社側に大きな損害が生じるなら、可能性がゼロでないことは覚えておいた方がよいでしょう。
元同僚や上司などから恨まれる
あなたが引き継ぎなしで退職することで職場が混乱したり、職場に残った同僚や上司に相当な負担がかかったりする可能性はあります。そうなれば、あなたは元同僚や上司から恨まれる可能性は否定できません。
特に退職代行で何も告げずに退職すれば、その可能性は高いです。可能なら世話になった上司や同僚には、「○○の理由で、退職代行を使って会社を辞める」ことを、こっそり話しておいた方がよいでしょう。
「会社を辞めれば同僚や上司と縁が切れるからいい!」と思っても、街で出くわさないとは限りません。関連する業種の他社に転職したような場合には、仕事上の理由で元の会社と取引等が発生しないとも言えません。そんなときに気まずい思いをしたり、仕事なら不都合な状況になったりすることも十分考えられます。
後ろめたい気持ちになる
これが現実的には最も懸念すべきリスクと言えるかもしれません。
何事もなく無事に退職できても、引き継ぎなしに退職して会社に迷惑をかけていれば、後ろめたい気持ちは残ります。その職場で働いていた経験があれば、あなたの突然の退職でどんな状況になるかは簡単に想像できる筈ですから、決して良い気持ちはしないでしょう。
そんな思いをしないためにも、できる限り引き継ぎはすませたいものです。
退職代行を使うときも最低限の引き継ぎはすませよう!
退職代行を使って会社に予告なく辞める場合は、完全に引き継ぎをすませておくことは現実的には困難でしょう。とはいえ、全く引き継ぎをしなくてよいわけではありません。
できる限りでよいので、最低限の引き継ぎはすませて会社への誠意をみせるようにしましょう。
時間がないときの引き継ぎのポイント
退職代行を使うような場合は、引き継ぎに使える時間は多くはない筈です。そんなときに、どうすれば最低限でも引き継ぎできるでしょうか?
以下、主なポイントを紹介します。
【前提】可能な限り職場で、難しい場合は自宅で準備する
まず前提として、退職代行で辞めると決めたあと、可能な限り職場で引き継ぎをすませておくとよいでしょう。職場でしか参照できない資料やデータもあるでしょうし、何より勤務時間内に引き継ぎはすませたいからです。それが難しい場合は、自宅で作業するようにします。
引き継ぎすべき業務をリストアップする
まずは引き継ぎしなければいけない業務を、メモなどにリストアップします。漏れがないように、小さな業務でも可能な限り書き出すようにしましょう。
マニュアルや資料を整理してまとめる
リストアップが終わったら、業務に必要なマニュアルや資料を整理してまとめておきます。全て会社のPC内に保存されているようでしたら、「引き継ぎ用」などのフォルダを作成するとよいです。
次に、第三者がみても分かりやすいようにフォルダ分けしてまとめます。最後に、リストアップされた業務ごとなどに使うマニュアルやデータを示したメモ書きなどをそのフォルダに保存します。
簡単でもいいから引き継ぎ内容をまとめた資料を作成する
これは自宅でもできる作業です。簡単なメモ書きでもよいので、引き継ぎ内容をまとめた資料を作成しておきます。難しければA4用紙1枚程度のボリュームでも構いません。
たとえば退職代行を実行して退職を認めてもらったあとに、自宅のPCでメモをまとめ、それをメール等に添付して送るだけでも、何も引継ぎしないよりはるかにマシです。
まとめ
退職代行で会社を辞めるときは、たとえば自宅で引き継ぎ内容をメモ書きしメールに添付して送るだけでも、何もしないよりずっとよいです。退職代行を使って辞める前に、会社のPCで引き継ぎ内容のデータや資料をフォルダにまとめておくことも有効な引き継ぎになります。
退職代行を使う限り十分な引き継ぎは現実的に難しいでしょう。しかし引き継ぎをしないことのリスクを避けるためにも、できる限り工夫して最低限の引き継ぎはすませたいものです。